名前をつけてください

なにもないよ

蛙の子は変えられる

 

尾野真千子が結婚していたらしい。

朝起きてテレビをつけるとみんなが騒いでいる。

世の中、情報はいつも突然だ。

朝寝て起きると好きだった女優がセックスしていたりする。

 

僕は急にほっしゃんが心配になった。

彼は今元気だろうか。うまく笑えているのか。結婚式には呼ばれたのか。

 

でもそんなの簡単だ。

きっと呼ばれてない。昔の男なんてもはや他人なんだから。

 

名前も知らないタレントたちがシナリオどおり騒いでいる。僕だけが、きっと日本でただ一人、ほっしゃんを心配している。

朝の情報番組は大嫌いだ。

 

 

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そして僕は身支度をしに洗面台に行く。ラジオをつける。

有吉が広瀬すずの真似をしている。

 

ん?広瀬すず

 

すると僕はなんだか広瀬アリスが心配になってくる。

きっと妹のほうが人気があること、ちょっとは気づいているんだろうな。

一体それはどんな気持ちなんだ。

 

でも僕にはそれがわかる気がする。いや、痛いくらいわかる。

嫉妬に関してはピカイチの理解力があると自負している。

 

 

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そんな僕には彼女がいない。きっと心配する人がいないからいろんなことを考えてしまうのだ。めちゃくちゃいい男なのにな。

 

 

よく僕は「彼女ができたら彼女のことをめちゃくちゃ大事にしそうだ。浮気とかしなさそう。」と言われる。

でも僕はこの発言にめちゃくちゃ怒っている。

「お前は浮気ができないくらいモテない人間だし、彼女を大事にしないと後々大変だもんな。」と言われているようだ。

 

少なくとも俺はお前のことなんか大事にしないでおこうと思った。

 

 

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話は変わって、誰にでもよくある話だが僕の父親はとても厳しい人だった。

特にお金には本当にうるさくて、一切自分のためにお金を使う人ではなかった。大好きな本もめったに買わず、ワイシャツもジャスコの安物を使う。背広ももういい歳なのに2万くらいの安物を使うような人だった。

そんな父親の高いものを買ったときの口癖は「大丈夫かな?」

 

そんな父親だったから、僕は昔から父親が大嫌いだった。取っ組み合いの喧嘩なんてしたこともあった。

 

でも浪人時代を父親の元で過ごして多少は父親のことが分かった。(つもりでいる。)

特に大学に入って一人暮らしをしてからは父親(母親も)が昔言っていたことがよくわかるようになった。それもまた愛情だったんだね。

 

 

そんな父親が最近8万円のサイレントギターを買ったらしい。

僕はそれを電話越しで聞いてとても嬉しくなった。電話からも父親が喜んでいるのが伝わる。後ろでギターを鳴らしたりする。

あの父親が嬉しそうに買ったものの話をしているのだ。

 

父親はもともとロックが大好きで、帰省した際に僕がギターを弾いているといつも興味深げにそれを覗いてきた。

一緒に楽器店に行ったこともあって、父親は「いいなあ」と言いながらアコギコーナーをさまよっていた。

 

そういうのを知っていたから、電話で知らせを聞いてあまりに嬉しくて僕は「いいじゃん!」を連呼する。そんな僕に父親は照れながら笑う。

言った通り、俺は本当にここ一週間で一番うれしかったんだぜ。

 

  

でも小さい頃からこんな関係がよかったなと思う。

あんなこと言われてもあんな歳でわかるわけねぇよ。

 

本当に不器用な人だから、と母は言う。

そんなことを思い出して僕はまた笑う。

 

 

思えば僕は父親に父親が喜んでいることが嬉しいんだと素直に伝えられたことが嬉しかったんだと思う。

 

やっと大人の入り口に立った気がする。

俺、今度オヤジって呼んでみようかな。

 

 

 

 


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