名前をつけてください

なにもないよ

Happy Birthday

 

パッと見た感じでは全く同じ人間に見える。

「あなた、育てにくい子ね。」

ママがそう言って笑うから、僕も笑わなきゃななんて思いながら、意味も分からず笑ってみせた。

ママ、うまく笑えたかな?

ほら、見てよ。僕は笑っているよ。

 

そしたらママ、次には突然僕に怒り始めるんだ。

何回同じことを言ったら分かるんだ、って。

僕はなんだかとても不安になって、大声をあげて泣いてしまう。

ごめんなさい。

「泣くんじゃないよ。みんなが見ているでしょう。謝るくらいなら泣き止みなさい。」

 

ごめん、ママ。上手にできないや。

上手に、僕はできない。

だって何がいけないのかよく分からないから。

 

 

だからあいつは人を殺したんだ。家も家族も燃やしちゃったんだ。

最後見たあいつ、壁と車の僅かな隙間で血を流してぺちゃんこになってた。どんな速度で壁に突っ込んだんだよ。

頭使えよ。そんなこと、しなくていいだろ。

人に会えよ。泥水啜ってでも、失敗してでもいいから人と話せよ。人生終わらすなよ。

僕らはもう、いい大人なんだ。

僕らはなんだってできる。だから頭を使うんだよ。

これ以上世間に顔見せなんてしなくていいだろ。

もう十分苦しんだろ。もう十分目立ってきただろ。

余計苦しむつもりか?

 

 

僕の同胞は、色んなところで傷ついて、色んなところで除け者にされて、色んなところで糾弾されているよ。

そして僕らはまた、いい具合に人々に利用され、使い捨てられる。

できないことの何かの言い訳を探すみたいに、ある時点でうまい具合に利用されて、必要なくなったらポイ捨てなんだ。

そいつら、きっとうまくいった頃には僕らのことなんて忘れてると思うよ。

だけど、僕らは君たちのことを絶対に忘れない。

だからあいつは狂っちゃったんだ。

お前らのせいなんだ。

 

 

ねえママ。僕、上手にできないのに、うまくできるフリをしているよ。

本当は嘘ばっかりついてる。でも誰も僕を見破ってはくれないんだ。

だからこそ僕は、とてもまともに暮らせているよ。

破滅と果てしなく近いところで、ずっと毎日を生きているよ。

でも友達がたくさんいる。本当に仲の良い友達。世の中、くだらないやつは本当に多いけど、友達だけは僕のことを分かろうとしてくれるよ。楽しいよ。

 

そんなこと、あんたにできるわけがないってママは言うと思う。

でもできるんだよ。

今までの人生で起こった出来事なんかをサンプルデータとして、それを分析し、何が適当な対応なのかをマニュアル化して現実世界で実行するんだ。

そうすれば誰も怒らない。誰も不快にすることなく暮らせる。友達もできる。

これをうまく運用できるようになるまでえらい時間がかかっちゃったけど、僕は今とても幸せに暮らしているよ。

 

だからママ。僕はもうママは必要じゃない。

病院も、お薬も、もう必要ない。

僕には頭がある。何か抽象的な物事からある教訓を引き出すことだってできるし、色んな体験から何が適切な対応なのかを考えることもできる。

更には習慣がいつしか癖になって、もう病気がほとんど病気じゃなくなることだってある。

 

 

だから人生終わらすなよ。

散々負けてきたろ。

もうこりごりじゃないのかよ。

悔しいだろ、見下されるの。

できなさすぎて散々嫌な思いしてきたんじゃないのかよ。

人殺して、自殺して。そんなのできないやつがやる代表格みたいな行為じゃねえかよ。

自分で勝手に白旗あげるなよ。

強くなりたくないのかよ。

テレビが悲しいだろ。こんな風に騒がれるのは胸が痛いだろ。

自分を拾ってくれた人たちに何も言えなくなるだろ。

 

だから今度会ったらそっと励まして欲しい。

そしてできるなら、少し祝って欲しい。

「これからもそのままで。」

そしたら話したい。

分からないかもしれない。

でもそれでいいと思うし、それがいいと思う。

例えば発達に問題があるとして。

ただの異文化交流なんだから。

 

 


▲THE NOVEMBERS "今日も生きたね" ▲