麦とホップ
「また逃げるの?」
「そういうつもりじゃないんだ。ただ、今は・・」
「そうさ。努力は無駄さ。よく分かったろう?」
「そうやって気取って。生きていく為にあなたは一体どうするつもりなの?」
「違うんだ、ただ・・」
「やった!やったぞ!」
「やったじゃないか!パーティーをしよう!それはそれは華やかなやつをね!今日はとびっきりいい日にしよう!」
「社会のシステムが・・」
「もうあなたのそういう自己防衛の仕方は見飽きたわ。だからあなたはダメなの。まるで話にならないわ。」
「パーティーだ!みんなありがとう!」
「またそこにすがるつもり?」
「やめろよ、そういうの。誰もお前の味方なんかしないぜ。」
「みんな必死なんだ。お前もいい加減ちゃんとしろよ。」
「違うんだ、違う・・ただ・・。」
「ダメなんだ。君はダメだ。まるでダメだ。いいかい?君はダメだ。」
「ダメだ。間違っている。君は間違いだ。」
「自己否定による承認欲求の高さが・・」
「違うんだ・・、」
「君はダメだ。」
「終わりだ。何も聞くまい。帰ってくれ。」
ダメだ。その覚悟は十分にできている。
「社会は間違っている。暴力による主張も辞さない。」
「でも人を殺したくはないんだ。」
「システムから溢れた人達の受け皿がない。革命だ。革命が必要なんだ。」
「あなたはどこを見ているの?ここにいること。それだけが正解なのよ。」
「違うんだ、聞いてくれ。」
「君はダメだ。まるでダメだ。」
「どうするつもり?」
「僕はただ・・」
「そういう理想論、いい加減聞き飽きたわ。あなたは生きることがどういうことなのかまるで分かってない。みんなしんどい思いをしながらそれなりに生きているの。」
「諦めろ。無理なことは無理なんだ。みんなしんどいんだ。」
「周りを見てみろよ。」
「違う・・・、」
「餓鬼じゃないんだ。」
「いい年した大人がよ。」
遠すぎる。
「またそうやってあなたは自己愛にまみれた文章を書くのね。」
誰かが言う。
そうさ。僕にはこれくらいしかできないのだから。
「分かる。言いたい事は分かる。誰だってそうなの。」
「でもね、皆はあなたみたいにそれを追い求め続けはしないわ。」
「食べなさい。そして寝なさい。そうすればきっと少しはマシになるわ。」
「僕はここに一切の人称代名詞を出さないような文章を書きたかったんだ。主語さえない、そういう世界をね。そうすれば何もかもがうまくいくと思った。」
「でも君にはそれができるほどの技術がない。」
「その通り。だから僕はどこへも行けない。」
「だけど君はそれがしたい。」
「うん。僕はそれがしたい。僕は文章を通して自己治癒がしたい。そしてそれを通じて人と対話がしたいと思っているんだ。僕はあまりにも多くのものを避けすぎた。」
「じゃあそれをするために早くビールをやめることね。ビールは君を壊すわ。早かれ遅かれ、君は壊れてしまう。」
「君に会う為には、ビールをやめたら会えるのかな?」
「ええ。ビールをやめたら会ってあげる。君にはまだ終わって欲しくないの。」
だから僕はビールをやめたい。
帰り道に見たスーツとその匂いで悲しくなった僕は、弾けないギターを一生懸命弾いた。
そしてまたビールを飲んだ。
会えないかもしれないけれど、僕にはこれしかできないのだ。
誰もが嫌いなたばこを吸った。これは社会不適合者の証だ。
「言ったわよ。あなたはそこに行くべきではなかった。」
これから僕はどこへ行こう。
夕焼け空は言わずもがな綺麗だった。
僕は今間違いなく酔っぱらっていた。
誰にも会いたくなかった。
「だったら文章なんて書かなかったらいいじゃない。」
誰もがその通りを通り過ぎて、それを僕は黙って見ていた。勿論ビールを飲みながら。
社会、社会はあまりにも遠い。
僕はこれからどこへ行こう。
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