三山木
いつの間にか夜になってしまった。
疲れのせいからか夕方に寝てしまった。
雨が降っていた。
胸に何かつっかかたような、人に伝えるとしたらそれはおそらく悲しい気持ちが心の一面を覆っていた。
外はすっかり夏の夜の匂いだった。
めまいがした。
僕はこれまで何人もの人にこの匂いがいかにいい匂いであるかを伝えてきた。
でもどうやら彼らにとって僕の話す言語は見聞きしたことのない他国の言語のようだった。彼らは一様に僕にそのことが理解できない旨を伝えてくれた。
今日も深夜のコンビニは来ないかもしれない誰かのために開いている。
店員はおつりを渡して深々とお辞儀をした。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています。」
そして僕は「ありがとうございます。」と言う。
でも僕もこの人もみんな、ありがとうございますなんて微塵も思っていない。
この店員はただこのコンビニのオーナーに雇われて働いているだけなので、ここの売上とは無関係に収入が入ってくる。
客が来ないほうが楽にお金が入るのでお前には二度と来てほしくない。
なあ、そうだろう?そう言ってみろよ。
ありがたい客がくるおかげで打ちたくないレジを打って、言いたくない言葉を発し、面倒くさい品出しをしている。
どうやらこの世界の全ては誰かの取り決めによって定められたある規則に従って動いているようだ。
これが社会というものらしい。
俺はそれを義務教育で教わった。そしておそらくあの店員も気持ちの悪い教師に偉そうに教えられたのだろう。
俺たちはそれをしないと怖い誰かに怒られてしまうので、弱っちいやつらは仕方なくそれをやり続けている。
でも50年後には俺だけしかしていないかもしれない。
誰かが言った。
「お前、気持ち悪いんだよな。」
ねえ、なんで先生。
人間にはこころがあるって、そう言ってたじゃないですか。
みんなの笑い声が聞こえてきて、俺は家のディレイを踏み忘れたことを思い出す。
俺は今日も傷ついて、そして一刻も早くこの世界からいなくなりたいのです。
「思ってもいないことを言うね、君は。」
そう言われて俺はケラケラと笑った。
少し頭がぐらついている。こないだ失敗したデートの話をしている。
きっと誰にも分からない。
分かってくれなんて言わない。
でもせめて、少しだけでいい。分かろうとして欲しい。
俺は心から、分かりたいと思っているよ。
伝わってるか。
「最近風が強いよね。嫌になっちゃう。」
かわいいあの子の顔が揺れている。残像がぼやける。何も言ってくれなかったな。
世界が音をたてて歪む。
そのまま大好きな煙に巻かれていく。
気づいたら俺はめまいで潰れていた。
おもむろに起き上がる。
名前を呼ばれた。
ゆっくりと視線をあげる。
その先にヤツが待っている。
「おはよう。大丈夫? そろそろ行く?」
鮮やかな朝焼けだった。
カーキ色は風がどこかへ連れ去ってしまった。どうやったら会えるんだろうか。
憧れた空を飛ぶことは、それは素敵なことだと俺は決して言えなかった。
彼女はポップスを抱いて寝てしまった。
俺はG#マイナーセブンスコードが好きだった。
彼女は野球が好きだった。
俺は野球を知らなかった。
ただそれだけのことだった。
カラスは通りを歩く人を見ながらいかにしてゴミを奪うかを考えている。
烏丸御池の交差点が好きだ。
アスファルトは何もなかったような顔をして、だけどいつかの雨に濡れている。
ニュースは毎日誰かの死を告げる。空は曇天を地面に押しつけている。
俺には分かる。円山公園ではきっとどこかで一輪の花が泣いている。
何気ない事。朝に飲んだコーンスープ。
やつらが好きなジュースは味気ないカルピス。大事そうにいつも持っていた。
誰も知らない火事。いつまで寝てんだ、ジョンレノン。
好きだった。
確かに、好きだった。
人を小ばかにしたようなテレキャスター。
仕方ないねとつぶやいて、笑顔でゴミをつまんだお前はどこへ向かうのだろう。
俺は歩く。殺したいくらい嫌いだけど、死ぬほど守ってやりたい俺の方。
お父さん、今日は家に入れてくれるかな。
「お前のそれは文学でもなんでもない。」
世間が笑っている。
カーキもきっと、誰かと笑っている。
嫌わないでね。
校正なんてしない。
俺の22年間。
愛着に埋もれた22年間。
指を指された顔。どこかで誰かが笑っていると怯えている。
笑顔。未亡人が褒めてくれたのさ。
もっとくれよ。
ずっと欲しかった。
そのままの、愛。
母さんは死にたいと言う。
首を振る。
「みんなもうあなたが怖いのよ。」
悲しい顔をしながら手を振っている。
夕方。
誰かが誰かを傷つける。
振り向いてもまだそこに在る。
うつむきがちの長岡京。
一人で出てきた東京。
電話先で聞こえる悲鳴。
涙。
俺はどこかに。
どこかに行きたいです。
青い警官は僕の目をじっと見ている。
僕はこの時、目の前にいるこの警官が自分が生涯でかかわってきた誰よりも僕のことを公平に見てくれているような気がした。
「これは本当に...君がやったのかね?」
僕は黙ったまままっすぐ警官を見た。
言うべきことは何もない。おしまいだ。
これは僕が望んでしたことだ。
これだけが生涯で唯一の僕の責任だ。
喜んで受け入れよう。
僕はついに正式にみんなと同じではなくなる。
もう普通の扱いを誰にも求めなくていい。
犯罪者という肩書。
俺はやっと、本物の自由を得る。
みんなは楽しそうに歌を歌う。
くるり - 言葉はさんかく こころは四角 オーケストラVer.
去らばこれにて
僕はその時「恋空」を読んでいた。
慶介という男が既婚女性である帆波に恋をするのだが、夜を共にした次の日から帆波と連絡がつかなくなり、帆波への思いが日に日に強くなった慶介は日を追うごとに外に出なくなり、お風呂に入らなくなり、ご飯を食べなくなり、そして最終的にはベッドで仰向けになったまま動かなくなって、そのまま死んでしまう話だ。
その日はとてもいい天気だった。
僕は近所の公園のベンチに座っていた。
遠くで一人の子供が滑り台の方へ駆けていった。それを母親がちんたらと追いかけている。
公園の木々はすっかり散っていて、もう秋も終わろうとしていた。
寒いというより皮膚が痛い季節だ。
そんな季節に僕はずっと好きだった女の子にフラれた。
この季節になるとみんな人肌恋しいと言いはじめる。言い始めるのだ。
僕は街中のイルミネーションが綺麗だと思う。そこにあるむき出しの意思がはっきりと感じ取れる。もちろん、そこに悪意などない。
すべて計算しつくされた都会の風貌はそんなみんなにお似合いだ。
「どうやら人肌が恋しいらしい。」
僕はそっと呟いた。僕とは関係のない第三者の噂のような響きだった。それだけが僕がまともであると言える唯一の証拠だった。
奴らとは違うんだ。君は見誤っているよ。
ふと横を見ると猫がニャアと鳴いた。遠くにいた子供と母親はまだ笑顔で遊んでいた。
その日僕は夢を見る。
僕は長い廊下を歩いていた。ずっと続く一本の長い廊下だった。その道を遮るものはなにもなかった。
辺りは真っ暗だった。廊下だけに光が当たっており、廊下の道以外のものがなにも見えなかった。ひとたび廊下の道から逸れると、その闇に吸い込まれるのではないかと思うような、そんな景色だった。
僕はその廊下をずっと歩いている。音も匂いも何もない無機質な空間をひたすらに。
別に立ち止まればいいじゃないかと夢を見ている僕は思った。しかしそこにいるもう一人の僕は足の運びを緩めもしなかった。黙々と、ひたむきに、歩みを続けている。
しばらくしてその廊下の先に、僕がずいぶん幼かった頃に晩御飯を食べている僕を母親が笑顔でじっと見つめている姿が映し出された。
それでもそこにいる僕は歩みを止めない。遠くを見て手足を規則正しく動かしている。
続いて廊下の先には小学校の校庭で父親とサッカーをしている僕の姿が映し出された。
徐々に廊下の周りが明るくなってくる。しかしまだ僕はまっすぐ水平線をめがけて歩いている。
次に女の顔が映し出された。顔に靄がかかっていてはっきりと視認することができない。どんなに目を凝らしてもその人が誰だか分からない。はっきり見たいと僕は思った。
すると突然自分を罵倒する言葉が聞こえてきた。その声はどんどん音量を増し、次第に何重にも重なり、ノイズへと変わっていった。
それでも僕は目を見開き、背筋を伸ばし、水平線をめがけて歩いている。
しばらくして廊下の先に黒い塊があると思うと、そこから大量のカラスが自分をめがけて飛んできた。恐ろしい速さだった。
廊下の周りはどんどん明るくなっていく。しかし視界は明るさを感知しているだけでその画面は目の前の大量のカラスでいっぱいだ。
それでも僕はそのまま背筋を伸ばしてまっすぐ歩いている。唯一変わっているのはその歩く速さだ。加速する。カラスの群れへと自らまっすぐ歩いていく。
俺が負けるわけがない。
やがて視界は光そのものになった。窓から大量の夕日が差し込んでいる。
カラスは鳴き、六帖一間のアパートが赤く染まる。
時計を見る。17時37分。
近所の公園から母親が帰りを促す声が聞こえた。
僕はそっとズボンを下ろした。あの子に会いたくなった。
あの子に会いに行こう。あの子のときめきを。
巷ではトニーという紙芝居師が流行っている。
「ワロタンゴwww」というギャグと優しそうなルックスが相まって女子高生の間で人気の紙芝居師だ。いまや老若男女問わず大人気で、毎日テレビにひっぱりだこ。抱かれたいB型芸能人ランキング第4位の実力派芸能人である。
そのとき有紗は大歓声の真っただ中にいた。
彼女の目線のはるか先にはうっすらと小さくトニーがいる。
今日は賀茂川南高校の文化祭。ゲストとしてトニーが来る日だった。
学校中が沸いていた。
人ひとりでこんなに騒げるなんてどれだけ幸福な人生を送ってきたんだろうと有紗は思った。隣を見るとたくみがポケットに手を突っ込んでボーッと佇んでいる。
同じことを思っているといいなと有紗は思った。
壁は考える生き物である。それは世の定説であり、猫と等しく犬より尊い。14歳より甘酸っぱく、2日目のカレーに残っているジャガイモの破片より脆い。
壁は友達が多い。なぜなら彼はおおらかだからである。床に言わせれば手でペタペタ触られるくらいならそうなるのは当然の仕上がりらしい。
そんな床だが、彼はある女子校生に恋をしたようだった。壁はその話を昨晩5時間も聞かされたのだから、彼が2回あくびをした後に3回くしゃみをするのも納得できる話である。
今朝、床は50歳手前のおばちゃん3名に体を丁寧にモップで拭かれていた。
いつものことだ。何か行事があると必ず床はお風呂に入れさせられる。彼はそのとききまって泣いている。
繊細な男だ。とても人間らしい、泥臭い男だった。
なぜ彼を人間にしなかったのか、壁は甚だ疑問に思うことがあった。
「俺はな、世界を変えるんだ。」
床はうつむきながら悲しげにそう言った。
「もう踏まれたくないんだ。誰にだって踏まれたくない。」
語尾に冷たい空気を感じた。
壁は返答に困った。世界中でなにより悲しいのは、大好きな人が困っていることに対してなんの手も差し伸べてやれないことだ。そう、彼は踏まれることのない”壁”なのである。
「だれがこんなに踏まれてるやつを好きになる?俺なら少なくてもならないね。そういうやつと一緒にいると自分の価値まで下がっちまうからな。何が悲しいって、そうさ、柚香さんにまで踏まれることだよ。好きな女性にまで踏まれちまう。みんな当たり前かのように俺を踏むんだ。それなら俺だって当たり前かのようにひとりひとりマントルに落としてやろうか。」
壁は必死に頭を回して、適当な言葉を探っている。
「でも床くん。君がいないとみんな地下へ落ちて行ってしまう。」
うまいことはやはり言えなかった。
「俺の重要性に気づかないバカは落ちてしまえばいいんだ。そのとき革命は起こる。ああ、床ってあったなぁって。逆に言えばだよ、そこまでしないとわからないんだ。誰も意識もしない。”きっと見てくれてる人がいるよ”って言えるのは認められたことがあるからだ。そしてそいつらに輝くなにかがあるからだ。みんなみんな、すべてが終わった後に言いやがるんだ。ああいういうことを宣うやつらはそのときの苦しんだ痛みや葛藤を度外視して、認められたという結果でラリッてやがる。その言葉を放ったあとも、そのことを言えた快感でアヘ顔だよ。狂ってる。いいかい、壁。響きがよく聞こえる言葉は大体言葉遊びなんだ。どれだけうまいことが言えるかを競っているんだよ。それに意味を持たせられたとしても、真実は含まれない。文法的に正しいだけだ。床として存在している、みんなの当たり前になった俺はどんなことがあっても消えることでしか気づいてもらえないんだよ。」
壁はついに黙ってしまった。僕らは、モノだからだ。立ち止まることすらできない。
そこにありつづけるモノだ。
「グッ。」
床が声を上げた。大量の生徒が群れをなしてこちらにやってきた。壁は黙ってそれを見ていることしかできない。これもいつものことだ。
助けてやりたいと思う。しかし僕らはそこにありつづけるモノだ。一個の独立した存在だ。悲しい話だが、それをカルマとして背負って生きていくことしか僕たちにはできない。
少なくとも壁はそう考えていた。
でもきっと床はそこにすら疑問を感じて生きているのだろう。
生きづらいと思う。けれど、だから、壁は床が好きだった。
トニーはその30分後にその場へやってきた。白のジーンズに白のシャツ、それにピンク色の蝶ネクタイをつけて、脇に赤色のフリップを抱えている。
床は多くの生徒とトニーに踏まれ、もちろん、柚香にも踏まれている。
目を閉じている。口をつぐんでいる。表情が一つも動かない。
壁もそっと目を閉じる。この地獄が早く終わるように。祈る。祈るのだ。
5時のサイレンが鳴った。トニーの学園祭ライブが始まった。
床はあれからずっと目を閉じている。身動きひとつしないまま。
窓から差し込む夕日がその会場を赤く照らす。
壁も赤い。
床は人々の黒い影を映し出す。
僕らは物質だ。
そこにあり続けた日からどれだけ頑張っても、僕らは僕らのままだった。それは理解するというより、理解させられるという表現が適格だった。受け入れるより他に術がなかった。
誰にも意識されず、そこにあるモノとして、求められているものを求められている通りにこなす。
どんなに辛かろうとそれが変えられぬものだったから、僕らはその枠の中で精いっぱい生きるしかなかった。その範囲のなかでできる工夫を僕らなりに模索して。
トニーの紙芝居は大勢の笑いをかっさらっていた。
昔、床はよく言っていた。
「なんでこんなに悲しいのだろう。」
悪いのは誰だ。悪いのは誰だ。
そして紙芝居の紙は話すだろう。
「悪いのはお前だ。」
やがて口は話すだろう。
「悪いのはお前だ。」
17時37分。
思想が世界を変えるだろう。
次第に時空が廻りはじめる。トニーの声は歪み、紙芝居の絵は歪曲する。
天地が逆転し、風景の左右も逆転する。生徒の位相が入り乱れ、すべてのモノが細かくミクロ単位で切り刻まれていく。異様な音がする。異様な臭いがする。
そんな光景の中で、壁はもはや何も感じなかった。終わりがくることに安堵すらしていた。
床はうつむいたまま肩を震わせていた。
ミクロの塊が奈落の底へと落ちてようとしている。轟音がする。
そして床は走り出した。壁は呆気にとられて動けなかった。
「世界を変えたぜ。」
ミクロの口がパクパクと動いていた。
床は一塊の黒になる。そこに柚香がいればいいと思う。
時間は待ってはくれない。言葉遊びなんかじゃない。
黒は落ちる。そしてそれは世界中に響く。
「覚えとけよ。」
蛙の子は変えられる
尾野真千子が結婚していたらしい。
朝起きてテレビをつけるとみんなが騒いでいる。
世の中、情報はいつも突然だ。
朝寝て起きると好きだった女優がセックスしていたりする。
僕は急にほっしゃんが心配になった。
彼は今元気だろうか。うまく笑えているのか。結婚式には呼ばれたのか。
でもそんなの簡単だ。
きっと呼ばれてない。昔の男なんてもはや他人なんだから。
名前も知らないタレントたちがシナリオどおり騒いでいる。僕だけが、きっと日本でただ一人、ほっしゃんを心配している。
朝の情報番組は大嫌いだ。
そして僕は身支度をしに洗面台に行く。ラジオをつける。
有吉が広瀬すずの真似をしている。
ん?広瀬すず?
すると僕はなんだか広瀬アリスが心配になってくる。
きっと妹のほうが人気があること、ちょっとは気づいているんだろうな。
一体それはどんな気持ちなんだ。
でも僕にはそれがわかる気がする。いや、痛いくらいわかる。
嫉妬に関してはピカイチの理解力があると自負している。
そんな僕には彼女がいない。きっと心配する人がいないからいろんなことを考えてしまうのだ。めちゃくちゃいい男なのにな。
よく僕は「彼女ができたら彼女のことをめちゃくちゃ大事にしそうだ。浮気とかしなさそう。」と言われる。
でも僕はこの発言にめちゃくちゃ怒っている。
「お前は浮気ができないくらいモテない人間だし、彼女を大事にしないと後々大変だもんな。」と言われているようだ。
少なくとも俺はお前のことなんか大事にしないでおこうと思った。
話は変わって、誰にでもよくある話だが僕の父親はとても厳しい人だった。
特にお金には本当にうるさくて、一切自分のためにお金を使う人ではなかった。大好きな本もめったに買わず、ワイシャツもジャスコの安物を使う。背広ももういい歳なのに2万くらいの安物を使うような人だった。
そんな父親の高いものを買ったときの口癖は「大丈夫かな?」
そんな父親だったから、僕は昔から父親が大嫌いだった。取っ組み合いの喧嘩なんてしたこともあった。
でも浪人時代を父親の元で過ごして多少は父親のことが分かった。(つもりでいる。)
特に大学に入って一人暮らしをしてからは父親(母親も)が昔言っていたことがよくわかるようになった。それもまた愛情だったんだね。
そんな父親が最近8万円のサイレントギターを買ったらしい。
僕はそれを電話越しで聞いてとても嬉しくなった。電話からも父親が喜んでいるのが伝わる。後ろでギターを鳴らしたりする。
あの父親が嬉しそうに買ったものの話をしているのだ。
父親はもともとロックが大好きで、帰省した際に僕がギターを弾いているといつも興味深げにそれを覗いてきた。
一緒に楽器店に行ったこともあって、父親は「いいなあ」と言いながらアコギコーナーをさまよっていた。
そういうのを知っていたから、電話で知らせを聞いてあまりに嬉しくて僕は「いいじゃん!」を連呼する。そんな僕に父親は照れながら笑う。
言った通り、俺は本当にここ一週間で一番うれしかったんだぜ。
でも小さい頃からこんな関係がよかったなと思う。
あんなこと言われてもあんな歳でわかるわけねぇよ。
本当に不器用な人だから、と母は言う。
そんなことを思い出して僕はまた笑う。
思えば僕は父親に父親が喜んでいることが嬉しいんだと素直に伝えられたことが嬉しかったんだと思う。
やっと大人の入り口に立った気がする。
俺、今度オヤジって呼んでみようかな。
真空ホロウ - 被害妄想と自己暗示による不快感 - YouTube
ヘルシンキ空港7番出口
先日関西も梅雨明けした。いよいよ夏本番である。
みんながどんどん薄着になり、いつも楽しそうなやつらはどこまでもハッピーに見える。全員鈴木奈々である。
そんな僕はまだ大学生で、大学生の梅雨明けといえば期末試験に埋もれるわけだが、全く予定のない夏休みに胸を踊らせながら頑張る試験勉強もなかなか風情がある。
これが、これこそが大学生なのだ。高校生諸君はきちんと目をかっぽじってリアルを感じてほしい。
最近は授業で前の席に座ったやつの予定帳を盗み見るのがひそかなマイブームだ。
びっしりと色分けされた予定たちがつまっているそれはいつも予定のない僕からするとむしろ疲れるんじゃないかとさえ思う。なにがパフェだ。なにが女子会だ。なにが旅行だ。
あんなのなんにもならないじゃないか。なにが楽しいねん。バカみたいに薄っぺらい関係で「マジ~」とか「それな」しか言わないお前らと居て。
すぐスマホ出すだろ。すぐラインするんだろ。
俺は寂しいよ。いつから人がいる目の前で他人と会話していいことになったんだ。
遊ぶ当日待ち合わせ場所でお互い落ち合ったら鈴木奈々みたいなリアクションするんだろ、お前らみたいなもんは。
先日誰かから日記をつけると後から振り返ってよい体験ができると聞いた。特に大学生のうちに何か自分が思ったこと、考えたこと、楽しかったことなどを書くととてもいいらしい。
そういうわけで、いいと言われたことならなんでも試したがる大阪のおばちゃんみたいな僕は今日から毎日日記を頑張ろうと、話すトピックのない中こうしてシャーペンとレジュメを放り出してここで記事を書いている。
しかし日記である。懺悔をする場所でも文句を言う場所でもない。
楽しかったこと。考えたこと。
思ったこと。
でも、そうだな。
俺、やっぱり鈴木奈々がいいや。
[Alexandros] - ワタリドリ (MV) - YouTube
愛
恥ずかしい。とても嫌な気持ちになった。
それは前回書いたブログの記事である。
酒で酔った勢いそのままに投稿したそれは今読むと赤っ恥も赤っ恥だ。
どこぞのポエム野郎と似たような書き出しで、平和ボケも甚だしい、気持ちの悪い記事である。
よくあんなものをOKとしたよなと自分でも思う。
自分の感性にはある程度の自信があっただけにとてもひどい気持ちだ。
なによりあの時僕はそれをいいと思ったのだ。なにがセンスだ馬鹿らしい。
僕の友達はよく「男は顔じゃねぇ。人柄だ。」なんて言う。いや、それならそれでいいんだけどそれじゃモテない僕は人柄も顔も全部終わっているのかと思う。
全然フォローになっていないフォローはもはやナイフそのものだ。
でも僕はそれに対して「そうだよな。頑張るよ。」と返事をする。
こんな返事ができる僕でもまだ人柄がダメだというのなら、それはもう希望もなにもないじゃないか。もし僕に子供ができたら諦めることがすべての近道だと教えるつもりだ。
もちろん僕の友達になるようなやつだから案の定そいつは戦歴2戦中0勝2敗で、一回だけ、本人談だと全く可愛くない女の子と高校2年の頃告白されて付き合ったらしいのだが、やらずに2週間で別れたことを大学2年になった今でさえも悔やむような男で、めでたく今年の春風俗でDを捨てた男である。
こんな僕の日常がもしリアルだと言うのなら、世界は本当に希望もなにもない。
台風が近づいている。風が強い勢いで吹き荒れ、傘は翻り、髪はぐちゃぐちゃだ。じめじめもしている。セッティングなんて無視してすべてが汗で台無しだ。
今日の僕をいつもの僕だとは思わないでほしい。僕はもう少し、もう少しいい男なのである。
そんな今日の帰り道、授業教室を出るとそこに広がっていたのは風で翻弄されている人々だった。なんと女の子のスカートが暴風でめくれているではないか。
一体どういうことだ。台風が近づいていることなんて最初からわかっていたことじゃないか。風でスカートがめくれる可能性なんてどんなバカでも頭には浮かんだはずだ。なんでそんなひらひらのスカートを履いているのだ。
僕の今日の最終コマは学科の必修授業で、ちょうどそれが5限目にあることもあってその授業が終わると皆家路につくのだが、教室を出て行くみんなを見ていたら僕は急にとても不安になった。
あの子は今日スカートを履いてはいないか。
僕はなんだかとても悲しくなった。
僕の頭に彼女のスカートから伸びる細い足がどんどん露わになっていく様子が浮かんだ。
許せないと思う。もし他の男が彼女のパンツに興奮するなんてことがあったなら。
なんて悲しい世界だ。僕だってまだ彼女をおかずにしたことはないのだ。
どうか彼女のスカートだけはめくれないでほしい。
守ってあげるから。僕はそう思って、下宿をしているから全然帰路には関係ない駅の方角へと歩を進め、あまりつけたがらないメガネを装着して風でスカートを抑える君を血眼になりながら探すのであった。
このようにして僕はまだ話したことのないかわいいお人形さんをまたひとつ知るのである。
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俺だ
こんばんは。
身バレしてしまったかとヒヤヒヤしたので新たに作りなおしました。
oppabuking、これなら誰もわからないだろう。
おっパブなんて行ったこともないけど。
でもそれでいい。
僕はね、最近もう何も分からなくなりたいと思ってるんですよ。
なんでかってそれは自分が一番バカにしていたものに近づいているから。
世の中には本当にたくさんの花がある。
僕はそこを飛び回る蜂なんだな。
蜜を運んで、一体それをどこに届けるんだい。
僕は周りの人を見ていると本当に自分が愚かに感じる時があるよ。
みんなも、そして君たちもそう感じる時があったらいいな。
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